小ネタで息抜き。vol.2 「プロ殺しと呼ばれた男、小池重明」

ジャンル問わずの小ネタ・小話を紹介する記事です。

将棋士の話です。

小池重明。職業はアマチュア棋士。ただし普通のアマチュア棋士とは違うんです。

昭和の時代を生きた人ですが、その時代には街に将棋センターなどがありそれなりに活況を呈していました。将棋が市民の代表的な娯楽となっており、賭け将棋を生業とする真剣師という人たちもいました。小池重明もその一人で伝説の真剣師として語り継がれています。
将棋センター
(将棋センターのイメージ。参照:https://shogiigo.com/dojo/)

当時はプロとアマチュアの実力差は歴然としており、アマチュアがプロに勝つことなど出来ない、とされていた時代に、五分以上の勝率で小池はプロを倒して名を上げることに。

そしてついたあだ名が「プロ殺し」「新宿の殺し屋」。

小池重明の魅力

とにかく強いことで有名だった小池ですが、今の棋士のイメージとはかけ離れていて、酒・ギャンブルに溺れ、女にだらしなく、知人の好意で仕事をもらっても職場の金をギャンブルに使ってしまったり、車を横領したり、しまいにはその人の奥さんと駆け落ちをしてしまったり・・・。

そして数年後にひょっこりと戻ってきて、「その節はすいませんでした。心を入れ替えましたのでまたよろしくお願いします」。
ずうずうしいというかふてぶてしいというか非常識というか、とにかく破天荒な性格をしていたようです。

普通なら縁を切られて当然、訴えられるような所行ですが、反省している小池を見るとひとなつっこさやかわいさを感じ、許してしまうような魅力があったようです。天真爛漫というか無垢というか。

その後、数年はおとなしくしているのですが、やっぱりまた悪さしてしまう・・・。ということを繰り返した一生でした。享年は44歳。長年の不摂生がもとで体を壊し、平成四年に亡くなっています。

とにかく将棋が強かった

自堕落で波乱に満ちた生涯を送った小池ですが、盤面を前に頭を抱え、過去の対戦の譜面を研究するという修行などは一切していなかったようです。

というより将棋盤すら持っていなかった、とか。

野球選手が素振りもピッチングもトレーニングも一切せず、いきなり試合に出てプロの球を打つ、というような感じです。

試合前日(大きな大会の優勝決定戦!)は晩から徹夜で飲み始めて対局に挑み、相手が長考に入るや居眠りをし(しかも横になって!)、そして勝ってしまう、というなんとも漫画のような話ですが、そんなエピソードに事欠きません。

対局中
(対局中にご飯を食べることはあるようですが、寝ることは・・・? 参照:http://blog.livedoor.jp/kinisoku/archives/3503153.html)

将棋自体は序盤は劣勢、後半一気に捲し立てるタイプで、競馬でいうと差し馬タイプ。

対局した人の多くが、いつの間にか劣勢になっていて、一気に攻められ、気が付いたときには勝負が決まっていた、といった感想を残しており、小池に勝った人でさえ後半の追い込みに恐怖を感じ、二度と勝てる気がしない、もうやりたくない、とどちらが勝者かわからないようなコメントを残しています。私は将棋がそれほど強くないのでわかりませんが、勝った相手に恐怖を植え付ける追い込みとはよっぽどすごいのでしょうね。

プロにはなれなかった小池

アマチュアとはいえ、これだけの実績を残していたので当然プロになるべき、という声はあがっていたようで、本来であれば若いときから奨励会などの手順を踏まないといけないプロへの道とは別の特例を設ける話があがっていたそうです。本人もプロになることは前向きでした。

しかしここでも悪い癖が出てしまいます。

懇意にしているプロ棋士に世話を焼いてもらい、プロになるための資格を得るための試験を目前にしながら、気の緩みから酒に溺れ、女のために人の金に手をかけて・・・。小池の実力なら絶対に合格すると言われていたのに。

このチャンスをフイにしてしまってからは、悪名が先行してしまい品位を求めるプロ連盟からは相手にされず、とうとう最後までプロになることはできないのでした。

繊細と不敵と

小池の性格について、憎めない男、という言葉が合いそうです。人付き合いはうまかったほうで、相手を乗せるように調子を合わせたりホスト役を演じたりという常識はあり、指す将棋からは想像できないような幼げな風貌もギャップがあり、人の懐に入るのに役立っていました。

一方、将棋のこととなると違う一面を見せるようで、プロと5番勝負を行って4勝1敗と勝ち越した際、プロに勝ち越したことに驚き称賛する周囲に対し、「俺に5回勝たせなかっただけでもプロは強い!」と嘯いてみる勝気な面も。

ちなみにこのエピソードを読んだときに、元読売巨人軍の投手、江川卓がプロ1年目に「僕が三振を取りにいった直球をファールするなんてプロはすごいな、と思いました」といったというエピソードを思い出しました。

ちょっとヒールな一面があったり、ダーティっぽい面があるところ、江川と小池は似ているのかもしれませんね。

そして晩年

プロへの道も断たれ、生きる目標を見失った小池はますます酒に飲まれ、自暴自棄に。真剣師としても強いという評判が立ち過ぎ対戦相手も見つからず、将棋自体の隆盛も失われていき、小池は世間からも忘れ去られていってしまうのでした。

無類の強さを誇った将棋の真剣師、飲む打つ買うの破天荒な私生活。

小池重明という人生は、昭和という時代を生き、時代の終わりとともに幕を閉じた「昭和そのもの」という言葉とともに私の記憶に残っています。

小池重明に関しては以下の書籍がオススメです。興味がある方はぜひ。



返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です